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放射性物質についての私的整理

 放射性物質による健康被害や許容被曝線量についての議論は、昨年3月以降、喧々諤々、ありとあらゆる自称「専門家」が多様な主張を繰り出し、分かりやすく明確な回答にはたどり着くことができない。そのため、安全/危険の「尺度」に対する日本国民の信頼は、きわめて低いと言える状況だと思う。ここ2日で、2冊の放射性物質についての著作を読んだ。家族の安心を最大限確保するための、行動指針に自信を持ちたかったからだ。

 なぜ、専門家間で、こうまで主張が入り乱れ、コンセンサスを得られないのか。その理由は、この2著作を読むと非常に明確にわかる。混乱の理由は、「放射線医療」と「放射線防護」で、学問的な思想がまったく異なるからだ。(建築の分野でたとえるなら、「建築計画」と「建築構造」の関係に近いのではないか、と個人的には思う。)

ざっくりと私の理解を述べると、
放射線医療:放射性物質が人体に与える影響についての医学
放射線防護:放射性物質の人体に対するリスクを軽減する医学

ということになる。
この2つは、似ているようで、真逆とも言えるほど異なる。そこで、1冊目の著作、

A:「中川恵一(2012)、放射線医が語る被爆と発がんの真実、ベスト新書」

を挙げる。本書の著者は、福島原子力発電所の事故以降、Twitter、ラジオ、テレビなどを通じ、放射線医療の専門家として、専門の立場から積極的に発言している。
 著者の主張はきわめて明確だ。それは、本書の帯にも書いてある通り「フクシマでがんは増えない」。その論理は、以下の通り。

 放射性物質を被爆した際のリスクは、低放射線量の場合、がんに限られる。がんは、細胞を複写した際に突然変異が生じ不死化したもの。突然変異の原因は様々であるが、その1つとして、放射線の被爆がある。年間放射線量が100ミリシーベルトを超えると、がんの発症率は0.5%増えるから、有害だと言える。しかし、100ミリシーベルト以下の低放射線量でがんが増えるデータはない。発がんリスクの多寡は、100ミリシーベルト以下の発がん確率に閾値があるかないか、という認識の違いにより、解釈が異なる。放射線防護の立場からは、安全側に立つ、「理念」のもと、「閾値が無い」ものとして、規制を組み立てようとする。国際的な機関でも、年間10ミリシーベルト以下では発がんのリスクは高まらない、としている。ここで他の発がんリスクに目を向けると、不規則な生活や、野菜不足、塩分の過剰摂取、運動不足(外出を控える)による発がんのリスクは、100ミリシーベルトの放射線被曝による発がんリスクと比肩する。したがって、放射性物質に対し過剰に恐れ、生活スタイルを変化させ(たとえば移住して)、口にする食物を制限することが人体・精神に与える影響の方が余程深刻なものになる。それは、チェルノブイリでの事故の際にきわめて厳しい規制により強制移住した結果、発がん以外の原因により、国民の平均寿命が極端に短くなっていることからもわかる。福島での事故による放射性物質で、がんは増えない。

 著者は、生活者の立場に立ち、放射線を恐れる行動により、精神を病み、生活の豊かさが失われていくことを危惧している。一言で表すならば、「病むまでに心配するほど、身体に影響のある線量では無い」と言い、過剰な防護に警鐘を鳴らす。
 A著作の著者、中川さんが紹介されていた、原爆の投下された広島は、現在、平均寿命が政令指定都市の中でトップクラス、という事実は新鮮だった。それは、戦後、充実した医療制度が関係者に提供されたからだ、という分析に共感できた。

一方、2冊目の著作での主張は全く違うものだ。

B:「児玉龍彦(2011)、内部被曝の真実、幻冬舎新書」

 本書の著者は、国会で政府の対応に「満身の怒り」を表明し、その様子がニュースやwebで広く取り上げられた。放射線防護の立場から、疫学的な証明には数十年単位の時間がかかる。今できることは、大量に放出された放射性物質の除染である、と主張する。つまり、「ある障害が放射性物質に起因すると証明するためには膨大な時間がかかる」と言い、今はとにかく除染するべき、と言っているのだ。
 その論理は以下の通り。福島での原発事故により、膨大な量の放射性物質が放出された。放出された放射線の総量に着目すると、雨や風、気候条件に応じ、流体的に放射性物質は濃度を変えるから、空間放射線量が「○ミリシーベルト」なら安全、という議論には意味がない。また、疫学的な証明には膨大な時間がかかる(たとえば、チェルノブイリは、放射性ヨウ素と子どもの甲状腺がんの因果関係が立証されるまでに20年かかり、立証される頃には発症そのものが終わっていた)ために、実測(疫学)ではなく、予測(シミュレーション)が必要となる。データが足りないからこそ、影響の予測が重要になる。医学的には放射性物質が与える影響について、議論はいくらでも続く(影響がない、という議論も含めて)が、それでは何の対策にもならない。だからこそ、まずは除染。

 一貫しているのは、「たとえ僅かでも、放射性物質が流出している事実に向き合いべきだ」というスタンスだ。本来浴びなくても良いはずの放射線を、政府や東電の責任で浴びさせられているのだ。誠意をもって除染にあたるのは当然だ、という主張。だからこそ、医学的にきわめて厳密に(難解なほどまでに)道筋を立て、政府に対応を求めているのだ。それは、政策的視点に立った、国民のための主張だ。

 A著作、B著作と、両者の言っていることは全く異なるが、実は全く矛盾しない。あくまで、立場の違いにより「異なっている」だけなのだと思う。両者とも、100ミリシーベルト以下の年間放射線被爆を、軽視していない。あくまで、用心するべきものとして著されている。強いて言えば、放射線医療(Aの著書)は身体、あるいは生活者の視点で考える立場。放射性防護(Bの著者)は国家、あるいは政策の視点で考える視点だと言えるのではないだろうか。A著作では医療の観点から、「人間」についてホリスティックに考えるが故に、心や生活の問題に行き着く。そのため、放射性物質と人体、という1対1の関係を超え、放射性物質と生活、とバランス型の論理になる。一方、B著作では、防護の観点から、放射性物質対人体、という関係性を厳密に捉えることで政策・施策を「安全に」整備し、運用していく、という論理になる。私は、どちらも正しいと思った。

 この2つの立場があることを踏まえ、私は、生活者としての行動の意思決定は、「放射線医療」で主張されていることを採る(少なくとも、放射性ヨウ素とセシウムについては理解が深まった)。がんに着目するならば、私は放射性物質よりも高い発がんリスクにさらされて生きている。短い睡眠、朝食抜き、たばこの副流煙、など挙げればきりが無い。そんな中、放射性物質にのみ着目して行動を制限していくのはあまりに非合理だからだ。それは、自分の家族にも同様だと考える。
 一方、我が国の規制や、福島県をはじめとした地域の復興・除染には、当事者が勝手に線を引いて補償の範囲を決めるのではなく、放射線防護の観点で、客観的・徹底的に取り組んでいくべきだ、という考えを採る。これは、有権者としての判断になる。

 こう書くと、「生活者」と「有権者」のダブルスタンダードで生きているような印象を持たれそうだが、これは、議論の対象に応じて、自らの考えも柔軟に対応させていこう、という意思表示にすぎない。重要なのは、生活を指向する医療の観点で、政策を決めないこと。政策を裏付ける防護の観点で、生活を翻弄されないこと。の2点ではないか。

 これからも、両者の立場それぞれに、意見や情報の提供があるものと思う。注目して、追っていきたい、と思う。


   

【余談1】
 1つ気になるのは、放射性物質の有害/無害の線引きさえきちんと理解しにくい状況で、大手マスメディアは3月以降、相当に早いタイミングで「風評被害」という言葉を使い、福島の被害を表現してきた。言葉の要旨に照らして考えると、「放射性物質による実害はないはずなのに、あるものとして社会は振る舞っている」ということになるが、放射性物質に対する恐怖感を非合理的に煽るコメンテーターも多かった。矛盾している。大半は当事者である東電や政府を批判する論調からだが、そうした浅はかな発言が混乱を助長している印象がある。大手マスメディアの中でも、「放射線医療」と「放射線防護」の立場の違いが理解できていなかったのではないか。表現内容に関して言えば、webと変わらぬほど、テレビも危うい。

【余談2】
頻繁にニュースなどで出てくる表現に、私なりの解釈をつけてみた↓
「ただちに健康に影響はない」≒低放射線量なので放射線障害は出ないが、将来的な発がんリスクはある。
ものは言いよう、ニュースの言葉には気をつけよう。

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仏像、恐竜、文房具。振り返れば多趣味。いや、趣味ではなく、真剣なのだ。それが問題。ジャンル問わず展覧会に興味あり。
一級建築士。工学修士。ユーザーの視点から建築・都市を考え企画するのがライフワークです。
https://twitter.com/wagyoo

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